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暖かい、とても暖かい手。
愛に満ちたその手が、大好きだった。
柔らかなお母様の膝の上で、幼い私は撫でられていた。
「…あなたに、教えておく事があるの。」
「?なぁに、おかーさま。」
慈悲の溢れるアルトの声色。
答えるは甘く舌足らずなソプラノ。
メリーゴーランドのオルゴール。
流れ出す曲に耳を傾けていたエルフは
曲が流れ終わると同時に、目を伏せた。
分かっていたんです。
残された時間が、残り僅かだと言う事を。
分かっているんです。
それを告げれば、決して今まで通りではいられない事を。
分かっていて、それでも
私は、あなたに伝えたい。
結末は私にも分からない。
本当は、とてもとても怖くて仕方がないんです。
どの答えが返ってきても、きっとあなたを傷つけてしまう。
…分かって、いるんです。
それでも、どうか知っておいて欲しいんです。
ちりちりと、痛む首筋に刻まれた刻印。
「…どうやら、私は明日を見ることは出来ないようです。」
諦めたくない。
けれど、分かってしまったんです。
―私は今日、100年の眠りについてしまう―
間に合えばいいと、願う。
せめて、神様がいるというならば
何度も何度も『私』を見捨てた神様がいるというならば
どうか、今日だけは奇跡を。
一度だけでも構わないんです。
だから、どうか伝えさせて欲しい。
そうすれば、100年の眠りも
きっと、甘んじて受け入れる事が出来るはずだから…
近く、或いは遠い、過去、現在或いは未来の果て
転生の魔女『達』はただ、たゆたう意識の海で
少女の現在を見つめる。
「何故?」「愚かなことを」「…軽率」
少女を呪うように侮蔑の言葉を投げつける者
耳を塞ぎ崩れ落ちる者、愉快気に笑う者
私のように静観する者などが、ただ見つめていた。
今はもう溶けて、自分自身の名前も憶えてはいないもの達。
…私とて、個としての意識を保っているのが
―個としての名を憶えていたのが、奇跡としか思えない。
それもいずれ、消えていくだろう。
けれど、私達の消えていく名も、記憶も少女が代わりに憶えている。
今生の転生の魔女たるものの、運命。
溶けたもの達全てを背負い、やがて溶ける。
―私が溶けるのが先か、この娘が溶けるのが先か―
自己が定まらず、揺れていた刹那の覚醒。
むしろ、少女はよく保っている方だと私は賞賛の言葉すら送ってやりたい。
―だからこそ、この娘が私達の果てであればと願わずにはいられない。
私の施した呪い、未だ解けぬそれに少女は逃げずに立ち向かうと決めた。
すっと、意識だけの世界で瞳を閉じる。
或いはありえた結末が、真暗き視界に見えるよう。
泣いて、微笑んで、貫き、倒れ付す少女。
白銀の雪原のような髪に大輪の紅い花が咲く。
海に降る雪の如く儚き姿の、確かにそこにいた存在に、散りばめられた薔薇のような血の花弁。
今生の転生の魔女たりし娘
Marinsnow・Está・Rozen
名は体を表すとはよく言ったものだと
選ばれなかった結末、最期の光景を目にし、何とも言えぬ気分になる。
あぁ、誰かがきっと彼女の為に泣いている。
どうしてと、悔やんでいる。
…かつて、私の死に泣いたあの子のように。
その道を選ばずにいて、安堵する自分がいる。
全く、私と少女は転生の魔女としては異端の存在だ。
だが、それでいい。
全ではなく、個を優先すること。
それこそが、私達の、原初の魔女の望みに通じるものだと私は確信している。
故に呪いを施したのだから。
そう、全ては転生の魔女である私達の為に。
「もしも、眠りにつき目覚めたならば、あなたはもう溶けてしまう…
そうなった時は、ただ転生の魔女としてまた繰り返すのみ。
……お願い、どうかあなたの手で終わらせて頂戴。
全てを憶えていてなお、ただ一人の生を選んだ、強いあなた。」
溶けてしまったもの達には聞こえぬ様に世界に囁く。
届かぬ、同じ魂の少女へ。
転生の魔女達―かつては個であった全なりし魔女―は、ただ見つめる。
近づきし宣告の刻に怯えながらも、幸福そうに微笑む少女を。
次の眠りが最後だと知って、けれど呪いを解く方法も何も分からず
一人の人として生きていくことを選ばず
転生の魔女としての、道を選んだ場合の結末妄想。
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「…先延ばしにし続けても、何も、変わりませんでしたね」
ほんの少しでも自分が変われると、救われると信じていたなんて
何て、愚かだったのだろう。
そうして、分を弁えずに関わりを持って
この結末へと辿り着く。
きっと、私を知る人たちを酷く傷つけるのでしょう。
もしかしたら、忘れられないくらいに恨んでくれるでしょうか?
そうであるならば、マリンスノーという少女は幾分か幸せだった事でしょう。
「もう、私は…『私』に溶けて、還ってしまうけれど。
…咎人はどこまでいっても、許されないから。」
最期に切なげ微笑んで、そっと短剣を取り出す。
慈悲の名を持つ、美しきミセリコルデ。
いつかの『私』が、かつて戦友だった人の命を絶った際に使った忌まわしき剣。
乞われたからとはいえ、罪は罪。
あの日の『私』は、泣いて謝りながら今の私と同じ最期を遂げた。
「……おやすみなさい、私の大切な人たち。
おやすみなさい、マリンスノー。
最初から、私の生に縋り付かずに…こうすれば良かったのにね」
きっと、しがみ付いたからこんなにも苦しかったのだ。
手放せばいとも簡単にこの苦しみから、解放されたのに。
深く深く、己の身体を抱くかのように慈悲の短剣で刺し貫く。
―そう、転生の魔女にはたった一度なんて得られぬ夢でしかないのだから。
…『私』は望む、夢の続きを。さぁ、もう一度始めましょう?
転生の魔女の、未来永劫続く救われぬ罪と罰の物語を―
海に降る雪の名を持つ、少女はその名をなぞる様に
骸となりて転生の魔女の意識の海に降り積もる。
しんしんと、海に雪は降る。それは終わらない生と死の物語。
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…なんてね!(帰れ)
いや、書いていた瞬間それも良いかなぁと思ってしまう自分が居るんですよね。
な、流されやすすぎます、私!!いや、でも幸せになって欲しいですから;;
でも、もしもの話だったらどれだけ酷い結末でも構わない気がします(酷)
…というか、あれですね。これだと、シギュンもスノーも可哀想だ。
本当は二人とも、一人として生きたいって願ってた数少ない転生の魔女なのに。
まぁ、でも…ほぼ元凶はシギュンなんですけど;;
変なテンションになってしまいこのままでは本気でBAD EDにしかねない、私(がたがた)
そ、そんな訳で潔く寝ますです><