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近く、或いは遠い、過去、現在或いは未来の果て
転生の魔女『達』はただ、たゆたう意識の海で
少女の現在を見つめる。
「何故?」「愚かなことを」「…軽率」
少女を呪うように侮蔑の言葉を投げつける者
耳を塞ぎ崩れ落ちる者、愉快気に笑う者
私のように静観する者などが、ただ見つめていた。
今はもう溶けて、自分自身の名前も憶えてはいないもの達。
…私とて、個としての意識を保っているのが
―個としての名を憶えていたのが、奇跡としか思えない。
それもいずれ、消えていくだろう。
けれど、私達の消えていく名も、記憶も少女が代わりに憶えている。
今生の転生の魔女たるものの、運命。
溶けたもの達全てを背負い、やがて溶ける。
―私が溶けるのが先か、この娘が溶けるのが先か―
自己が定まらず、揺れていた刹那の覚醒。
むしろ、少女はよく保っている方だと私は賞賛の言葉すら送ってやりたい。
―だからこそ、この娘が私達の果てであればと願わずにはいられない。
私の施した呪い、未だ解けぬそれに少女は逃げずに立ち向かうと決めた。
すっと、意識だけの世界で瞳を閉じる。
或いはありえた結末が、真暗き視界に見えるよう。
泣いて、微笑んで、貫き、倒れ付す少女。
白銀の雪原のような髪に大輪の紅い花が咲く。
海に降る雪の如く儚き姿の、確かにそこにいた存在に、散りばめられた薔薇のような血の花弁。
今生の転生の魔女たりし娘
Marinsnow・Está・Rozen
名は体を表すとはよく言ったものだと
選ばれなかった結末、最期の光景を目にし、何とも言えぬ気分になる。
あぁ、誰かがきっと彼女の為に泣いている。
どうしてと、悔やんでいる。
…かつて、私の死に泣いたあの子のように。
その道を選ばずにいて、安堵する自分がいる。
全く、私と少女は転生の魔女としては異端の存在だ。
だが、それでいい。
全ではなく、個を優先すること。
それこそが、私達の、原初の魔女の望みに通じるものだと私は確信している。
故に呪いを施したのだから。
そう、全ては転生の魔女である私達の為に。
「もしも、眠りにつき目覚めたならば、あなたはもう溶けてしまう…
そうなった時は、ただ転生の魔女としてまた繰り返すのみ。
……お願い、どうかあなたの手で終わらせて頂戴。
全てを憶えていてなお、ただ一人の生を選んだ、強いあなた。」
溶けてしまったもの達には聞こえぬ様に世界に囁く。
届かぬ、同じ魂の少女へ。
転生の魔女達―かつては個であった全なりし魔女―は、ただ見つめる。
近づきし宣告の刻に怯えながらも、幸福そうに微笑む少女を。