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暖かい、とても暖かい手。
愛に満ちたその手が、大好きだった。
柔らかなお母様の膝の上で、幼い私は撫でられていた。
「…あなたに、教えておく事があるの。」
「?なぁに、おかーさま。」
慈悲の溢れるアルトの声色。
答えるは甘く舌足らずなソプラノ。
「私達が花人である事を、人に知られては駄目よ。」
「どーして…?」
「花人は、愛の種族。
だから、愛たる自分の血を分け与える事で万病を治し、呪いを解く奇跡を起こす。
ずっとずっと昔は、万人に愛を与える事が出来たわ。
でもね、人は愛を、奇跡を求めるばかりで…私達を愛さなくなった。
自分たちの種族を守るためか、私達は生涯でただ一人しか愛せないように変わってしまった。
そうして…悲劇が起こり、庭園は荒らされ、僅かに生き残った私達は散り散りになったわ。
時が流れた今でさえ、花人の血は奇跡を起こすと狙われている。
…知られれば、私達は生きてはいられないのよ。」
難しい言葉で、あの頃の私には全部は理解できなかった。
でも、とてもとても哀しそうな、辛そうな母の顔が目に入り
絶対に、知られては駄目なのだと、子供ながらに分かった。
「おとーさまも、だめなの?」
大好きな父にも、教えては駄目なのだろうか。
浮かんだ疑問を、口にすればお母様はふっと笑った。
「…お父様は、私が教えて知ってるわ。
あの人は、私の選んだトピアーリウスだから。」
「トピアー…リウス??」
聞きなれない言葉に、疑問符を浮かべる。
「旧き言葉で、庭師と言う意味よ。
花人が、自分の命をかけて愛すと決めた花人以外の存在のこと。
選んでしまえば、その花人はトピアーリウスだけを愛するの。」
「じゃあ、おかーさまはすのーをあいしてはくれないの?」
愛されていないのだと思い、涙をぽろぽろと零せば
気丈なお母様が珍しくうろたえ、首を振った。
「あぁ、違うのよ、スノー。
まだあなたには難しいかもしれないけれど、友達や、親子への愛情と
愛する者…トピアーリウスへの愛情は全く別の感情なのよ。
だからね、私とスノーは親子だから。
親として、ちゃんとあなたを愛しているわ。」
だから、泣かないで。と抱きかかえ撫でられる。
勘違いだと分かり、泣き止もうと努力するも中々涙は止まらなかった。
「…トピアーリウスは、花人にとって生涯でたった一人しか選べない。
もしもあなたがトピアーリウスを選んだならば、その人にだけは花人である事を明かしなさい。
選んだ限り、命をかけて愛さなければいけないのだから。
…もし、トピアーリウスがあなたを愛さず、あなたの命を奪ったとしても
あなただけは、トピアーリウスを愛さなければいけないわ。
憎んでしまえば、花人は災厄を芽吹かせてしまうから。
だから、覚悟が無いのならば永遠に花人である事を秘密になさい。
トピアーリウスを選びさえしなければ、私達は安全に花のまま終われるわ。」
あやすように、ぽんぽんと背を撫でられる。
「じゃあ、どうして。
おかーさまはおとーさまをトピアーリウスにえらんで
あいしたい、っておもったの?あぶないんでしょう…?」
問いかければ、お母様は目を細め穏やかに微笑んだ。
「…あなたも、誰かを心から愛せばきっと分かるわ。
でも、出来る事ならば…ずっと先の話であって欲しいわ。」
「…どーして?」
「だって、こんなに愛している娘と離れるなんて寂しいじゃない。」
今ならば、お母様の言っていた全てが理解できる。
安全に花のまま終われるのは、きっと愛を知らない蕾のまま終わると言う事。
或いはそれは幸せな事だと思う。
愛する事の辛さも哀しみも知る事は無い。
同時に、愛する事の幸せも想いも知らないと言う事。
それは信じる事を怖がって、幾度も生を繰り返した『転生の魔女』の生き方。
私は、たった一度を選び繰り返さないと決めた。
だから私は、選び取りましょう。
―どうか…聞いていただけませんか。―
あなたが私の、トピアーリウス。